【ヨットのウォータロック(Water Lock)をFRPで自作する】
・ ヨットのエンジン冷却排水と排気設計のポイントは こちら
---【ヨットの設備関係の目次】---
・ステンレス製のウォーターロックが錆びる原因は こちら
・FRPパイプの自作(曲げパイプ自作)は こちら
先のブログに「ステンレスのウォータロックは錆びる,FRPで自作しては」と書きました。今回は,ウォーターロックの仕組みと自作編です。
【ウォーターロックの構造と働き】
ウォーターロック(WaterLock)の内部は次の図のようになっています。
エンジン運転中,ミキシングエルボから排水を含む排気がウォーターロックへ送り込まれます。送り込まれた排水は排気の力でウォーターロックから排気口へ送り出されます。エンジンが停止し,排気圧力がなくなると,排気途中にあった排水が排気ホース側からもどります。もどってきた排水がエンジン側へ流入するのを防ぐのがウォータロックの役目です。
エンジンからの排気入口は底面から最も高い位置に設けます。理由は,ウォーターロック内の排水がエンジン側へもどりにくくするためです。排出側のパイプは底辺に近いレベルまで下げます。これにより,底面近くに残留した排水も排気圧力で排気口へ押し出されます。
エンジン運転中,ウォーターロック内にとどまる排水を少なくしないと,エンジン停止時と同時に排気ホース内の未排出水がウォータロック側へ戻るため,それらの戻り排水を,余裕を持って溜めることができません。
底面近くの排水を押し出すために排出側のパイプを図のように底面に近いレベルまで下げることが大切です。
ウォーターロックの入口側の高さは排気ホース側から未排出水が戻ってきても,エンジン側へ排水が戻らぬよう十分余裕のある高さが必要です(ミキシングエルボとの高低差は → こちら)。
また,未排出分の排水がウォータロック側へ戻ってもロック内の水位が高くならぬような大きさ(容量)が必要です。(船尾の排出口までのホースが長いのにウォーターロック容量が小さいのはエンジントラブルのもととなります)
(図はクリックで拡大します)

下図は排気口の方向を水平方向にした例です。
排気口の出口側を水平方向にしてもかまいませんが,入口側を低くしてはいけません。上図に比べると排気入口側が少し低くなった分だけ逆流の安心度が下がります。下図右は排気入口側を水平方向にして,かつ逆流防止のために内部の高さを高くした例です。(図をクリックすると拡大します)


【ウォーターロックの内部温度について】
ウォーターロックはエンジン排気熱が加わるため内部温度が非常に高くなるのではと考えますが,その温度は「ミキシングエルボで冷却排水が混合された後では42度C」とヤマハ設計室から発表されています。詳しくは「ヤマハ設計室だより:艫(とも)排気システム」の「艫排気用配管材料の選定」をごらんください。
ヤマハ設計室だより:艫(とも)排気システムは → こちら
【ウォーターロックをFRPで自作する例です】
上記のようにキシングエルボで冷却排水が混合された後の内部温度は急速に下がるのでウォーターロックの材質としてFRPを選定しても問題はありません。以下はFRPによる自作例です。
安価な木板で下図のような形をつくります。
板のサイズは容積をいくらにするかで増減します。
容積は,ウォータロックから排気口までに残留する排水がもどってきても十分に余裕のある容量が必要です。(図をクリックすると拡大します)

下図のように板を組合わせて釘で止めます(後で取り外すので簡易なとめ方をします)。
底板も作って軽く釘止めします。箱の底辺を短くした形にするのは,最終段階で板を取り外しやすくするためです。
したがって,底辺の長さを短くする分は少しでもOKです。
板で作った箱をひっくり返して,接合部分を丸く削ります(FRPで積層した時に角が滑らかに仕上がります)。(図をクリックすると拡大します)


箱の表面にクレラップまたはサランラップを張るます。
シワが少なくなるように張ると仕上がりがきれいです。
ラップは二重以上の厚さに張ります。
張った上に,本来は,剥離材を塗りますが,ラップが剥離材の役割をするので剥離材無しでもOKです。
FRP用ガラスマットまたはクロスを全面に張ってFRP用樹脂で積層します。
この時の積層は次の工程で穴を開けるのでほどほどの厚さにとどめます。(図をクリックすると拡大します)

硬化したら,木板を全てはがします。ラップも剥がします。
下図のように,横板に穴を開けて,排気入口パイプと排気出口パイプを取付けます。
穴とパイプの隙間に樹脂を沁みこませたガラスマットを詰め込み内側から しっかりとふさぎます。
天板をFRPで作り,はめ込みます。はめ込んだ隙間に樹脂を沁みこませたガラスマットを詰め込みしっかりととめます。
仕上げに,全体をFRPで積層し,ペコペコしないように強化します。(図をクリックすると拡大します)

できるならば,排気入口のパイプは最初の図のように天板側から入れたほうが安心です。
船体への取付け板は,船体に合わせて取付けると良いでしょう。
【番外編:プラスチックのゴミ箱でWaterLock】
下図はプラスチックの円筒型ゴミ箱の内側をFRPで積層して作る方法です。
小型エンジンで,かつ,船尾の排気口までの排気ホースが短い場合は,下図のサイズより小さくしても良いですが,直径を小さくすると,入側と出側の高低差が小さくなるので逆流する可能性が高くなります。当たり前ですが,設置にあたって,排水入口パイプが必ず上となるようにします。
プラスチックのゴミ箱の外側にFRPを巻いて作るのは要注意です。排気熱でプラスチックが溶け,排気出口を塞いだり,詰まらせるおそれがあるからです。
(図をクリックすると拡大します)

先のブログに書きましたが,ウォータロックはミキシングエルボのインジェクション点から25cm以上の高低差を設け,できるだけミキシングエルボから近い位置へ設置することが肝要です。
注意:ウォーターロックを適正に設置したので万全…ではありません。荒海を航海をするヨットでは後方からたたきつける波が排気ホースへ侵入しないように「グースネック」などを使用して船尾で排気経路をしっかりと高くする排気経路の設計が重要です。
これらはこちら「ヨットのエンジン冷却排水と排気設計のポイント」をご覧ください。
【参考:メーカ製 WaterLock】
自作がめんどうな方は,Vetus社が製造しているWaterLockを使用するのも良いでしょう。
次のURLでVetus社の排気系のページが見られます。
http://www.vetus-shop.com/vetus-exhaust-systems-c-21_72.html
次はその中から1例です。(図をクリックすると拡大します)


・ヨットのエンジン冷却排水と排気設計のポイントは → こちら
・ステンレス製のウォーターロックが錆びる原因は → こちら
・FRPパイプの自作(曲げパイプ自作)は → こちら
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- 2011/09/06(火) 17:48:32|
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