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ステンレスなのに錆びる

【ステンレス製のウォーターロックなのに,なぜ錆びるのか?】

---【ヨットの設備関係の目次】---
ヨットのエンジン排気と排水設計の留意点
ウォーターロックを自作する
FRPパイプの自作(曲げパイプ自作)
ヨット オケラⅢ世のエンジン排気と排水(昔話)

ステンレス製のウォーターロックが錆び,排水が漏れることがあります。
錆びないはずのステンレスなのになぜ錆びたのでしょうか?
それには,まず,ステンレスの錆びない仕組みを知ることが大切です。
【まえおき】
鉄は,自然界では安定状態の酸化物(鉄鉱石)として存在します。
酸化した状態(錆びた状態)で安定した物質となっているのです。
人間が,鉄鉱石を溶かしコークスで酸素を切離すことで鉄となります。
鉄は,水や空気中の酸素と反応して再び安定した状態にもどろうとします。
この戻ろうとする反応が錆び=腐食の現象です。

ステンレスは鉄が酸素と反応して再び酸化しないように研究開発された合金です。
19世紀に研究が始まり20世紀に実用化されました。

ステンレス(StainLess Steel)とは,鉄にクロムやニッケルを含有させた合金です。
ステンレスは水や酸素など作用で表面に薄いクロムの保護皮膜が形成されていて錆びにくい状態(不動態)となっていると言われています。
この保護皮膜は,表面に傷がついても,すぐに修復されます。
十分な保護皮膜ができるにはクロムの含有量が12%以上必要です。

ステンレスが気体や液体の中で錆びない状態を保つためには,保護皮膜を形成するための作用に必要な酸素が一定量存在する必要があります。
即ち,海水など塩素イオンの存在する場所において酸素が不足すると保護皮膜が減少し,腐食(錆び)がはじまります。
ヨットで,ステンレスの長いボルトを抜いてみたらボルトの頭とナットはなんともないのに,ボルトの中間部がボロボロになっていることがあります。
ボルト中間部に海水成分(塩素イオン)が存在し,かつ,酸欠状態となっていたため保護皮膜が減少して腐食したと言うことでしょう。
ヨットのステンレスのパルピットが塩水をかぶっても錆びないのは,海水(塩素イオン)が存在しても,たえず新しい酸素が表面へ供給されるため保護皮膜の減少が少ないためと考えられます。
海水中でも流れている場合は錆びにくい状態となりますが,これは水の酸素が作用して保護皮膜を減少させないためと考えます。

【本題】
ステンレス製のウォーターロックが錆びる原因は,ステンレスの溶接に問題がある場合が多いと考えられます。
ステンレスには,クロムの量を多くして,ひどい環境の中でも錆びにくくしたもの,高温状態で使用できるもの,硬度を高くしたものなど,大きく分けて70種類ほどあります(細かく分類すると約200種類以上)。
最も広く使われている18-8ステンレス(SUS304)はクロム18%,ニッケル8%です。

ステンレスを溶接する時,溶接部の温度を1400度へあげて金属を溶かして接続します。
常温から1400度まで上昇する途中で溶接部の温度が450度から850度の範囲を通過します。また,溶接後,再びこの温度幅を通過して常温へ戻ります。
この温度幅を通過する時に,ステンレス合金を形成しているクロムが合金状態からはずれ,炭素と結合して炭化クロム化します。即ち,この温度幅の時間が長く続くと,ステンレス合金を形成していたクロムが炭化クロム化で変化し,ステンレスとしての性能が低下します。
その炭化クロム化した部分の耐食性が低下し,粒界腐食が起きやすくなります。ステンレス製のウォーターロックが錆びるのはステンレスの溶接時に局部的な耐食性の低下状態を作ってしまったためです。

では,どうするべきかですが,
(1)ウォータロックを作る時,素材として5mm以上の厚みのあるのステンレスを使用する。
(2)溶接芯線としてクロムが補充できるものを使用する。
(3)溶接方法として,飛び石手法などで450~850度Cとなる時間を短くする。
---例えば,溶接部の近くへ導電率の良い銅板など添えて熱を早く取り除くなど。
(4)SUS304よりクロムの多いステンレスを使用する。
(5)ステンレスの特性を熟知している職人に溶接してもらう。
などが考えられます。

ステンレスには,オーステナイト系,フェライト系,マルティンサイト系があり,腐食には粒界腐食,孔食,すきま腐食などが・・・と説明してくれる職人はステンレスを熟知している人でしょう。

でも,こんなことまでしてステンレス製のウォータロックを造らずとも・・・と思います。
耐熱,耐圧のある樹脂で造るのが簡単で長持ちすると思います。
自作するならば,FRPで造るのが簡単ではと思います。
不飽和ポリエステル樹脂を使用した一般的なFRPの耐熱は130~150度Cです。
エポキシ樹脂を使用すると耐熱は150~200度Cと高くなります。
(電子回路用のプリント基板は熱に強いエポキシ樹脂が使用されます)

参考:ウォーターロック内の温度について,エンジン排気熱が加わるため高温になるのではと考えますが,ヤマハ設計室から「ミキシングエルボで冷却排水が混合された後では42度C」と発表されています。詳しくは「ヤマハ設計室だより:艫(とも)排気システム」の「艫排気用配管材料の選定」をごらんください。
     ヤマハ設計室だより:艫(とも)排気システムはこちら

蛇足
日曜大工店などで鉄管にステンレスを巻いたパイプを見かけますが,この種の巻パイプは水や海水,潮風のあたる場所で使用してはいけません。ステンレスと鉄の接触面において「異種金属腐食=電気分解」が生じ,鉄の部分が急速に腐食します。テレビアンテナの支柱などへの使用すると,短い時間で内側の鉄管部分が腐食して倒れる場合があります。

・ウォーターロックを自作する はこちら
・FRPパイプの自作(曲げパイプ自作)はこちら
・ヨットのエンジン排気と排水設計の留意点 こちら


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  1. 2011/09/01(木) 11:45:52|
  2.   ヨットのウォーターロック
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