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5.1 SWRが3の時,送信電力の25%が損失となるとは言えない
5.1 SWRが3の時,送信電力の25%が損失となると言えるか?
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⇒ こちら
アマチュア無線家の中に次のように説明する方がいますが正しいでしょうか?
次の図-1はモデル図です。 21MHz用ダイポールアンテナとして, エレメントを少し長めにすると
ANT給電点のインピーダンスがZ=77Ω+j65Ωとなり,SWR値は3となります。
(わずか長くしただけでリアクタンス分が+j65と増加し,SWRが悪化します)
次の図-2は図-1のアンテナ給電点と同軸ケーブルの接続点における「進行波電力Pr」と
「反射波電力Pr」そして「ANT側へ進む電力Pant」を図示したものです(図を横にしました)。
「ANT給電点」の不整合によって生じたSWR(VSWR)の値を「S」とすると,Pf,Prは次の式で表せます。
図-2のPantを10Wとして計算してみます。
(この式の詳細は「フィーダ-上の高周波電力(進行波と反射波)」 ⇒ こちら を参照ください)
SWR=3の時の「進行波電力Pr13.3w」対する「反射波電力Pr3.3w」が25%となるのです。
(3.3w÷13.3w=0.25 ⇒ 25%)
次の図-3はこれらを図示したものです
(21MHz)
。
図の右サイドがANT給電点におけるPf(13.3w)と Pr(3.3w),Pant(10w)の値です。
図の左サイドは「送端A」における送信機出力Ptx(14w),Pf(16.7w)と Pr(2.7w)の値です。
「送端A」にはSWR3状態の同軸ケーブル上の実際のインピーダンスと整合させるマッチング回路があります。
(整合状態であれば送端Aから送信機側へ反射波電力はもどりません)
上の図-3の右側の進行波電力Pf(13.3w)が,左側の進行波電力Pf(16.7w)より小さいのは,
同軸ケーブルの損失によるものです。反射波電力Prも同軸ケーブルの損失で差が生じています。
(21MHzにおける同軸ケーブル5D2Vの標準減衰量(損失)は20m当たり1dbを適用して算出します。)
(この部分の詳細は「フィーダ-上の高周波電力(進行波と反射波)」 ⇒ こちら を参照ください
次の図-4は,送信機出力電力を10wとした場合です
(21MHz)
。
図-4のようにSWR3の場合、送信機出力10wのうち,7.1W(71%)がANTへ進む,
即ち,
損失は2.9w(29%)
なのです。
電力10wが電力7.1wへの減少をdbで表すと「-1.5db」です。同軸ケーブルの損失は
1dbだったのに,1.5dbと増加したのは,SWRによる損失増加分が生じたためです。
上の場合の損失29%は「SWR3の時は25%が損失」に近いのではと思うかもしれませんが,
これは上のモデルの同軸ケーブルの規格損失によって,たまたまの値です。
次の図-5は,同じ同軸ケーブル長で周波数を
7MHzとした場合です
。
周波数が下がると同軸ケーブルの標準減衰量(損失)は小さくなり,20m当たり0.5dbです。
ANT給電点のPfに対するPrの比は2.9w÷11.5w=0.25(25%)と変わりませんが,
送信機出力Ptx(10w)に対するANT電力Pant(8.6w)が86%,
即ち,送信電力に対する電力損失は
1.4W(14%)となり,「SWR=3の時,25%が損失になる」・・・とは大きく異なります。
次の図-6は,同軸(or平行)ケーブルの標準減衰量(損失)が全く無い場合です。
送信機電力10wがケーブル上では,送端A側も,ANT給電点側も進行波電力Pf(13.3w),
反射波電力Pr(3.3w)となりますが.ANT給電点からANT電力Pant(10w)としてアンテナへ
進むため,SWR=3であっても、送信電力の損失は生じないのです。
同軸(or平行)ケーブルの規格損失が小さければ,SWR=3でも送信機出力電力の大部分が
ANTへ進み,25%が損失となるような状態は発生しません。
5CFB同軸ケーブルを7MHzでSWR=8で使用したとしても,長さが1~2mと短い場合は,
ケーブルの標準損失が小さいので,送信電力の損失は少ないでしょう。
但し,送端Aにおいて,送信機側とSWRが発生しているケーブル側が完全に整合できている
こと,整合回路の損失が無いことが条件です。
ここまでをまとめると,
(1) SWR3の時,25%が送信電力損失となるとは言えない。
(この25%はケーブル上に生じた進行波電力Pfに対する反射波電力Prの比です)。
(2)
7MHzなど低い周波数
で,標準減衰量(損失)が小さい同軸ケーブルや平行フィーダ)を
使用するなら,
SWRが3でも送信電力の損失は気にしなくても良い
。
(3) 但し,
送端Aにおいて整合を完全にとることが重要
です。
(これは同軸ケーブル上のSWRの改善ではなく,送信機出力を効率よくケーブル側へ
送り込むことで送信機出力半導体の熱破壊を防ぐ必要があるからです)
144MHzなどで同軸ケーブル5D2VをSWR3で20m使用すると大きな損失が生じ,送信電力の2/3がケーブル上で熱損失となります。
基本的には
・ANT給電点におけるSWR値を小さくする
・標準減衰量(損失)の小さいケーブルを使用する
ことが重要です。
では,
「SWR3の時に25%が反射損となる」とはどのような場合
のものなのでしょうか?
次の図-8は送端AとANT給電点の接続ケーブルの長さをゼロにしたものです。
(送信機出力端子に1cmの配線も使用せずANT給電点に接続するようなことはありえませんが・・・)
次の図-8-2は上記を「教科書的モデル」としして表したものです。
実際に左右を接続する配線(伝送路)をゼロメートルにすることはできませんが,教科書ですから
ゼロメートルとし,接続点に整合回路が無いとの条件にすると,
「SWR3の時,75%が負荷へ供給され,25%が供給されない」となります。
周波数を低くして0.1ヘルツ(≒直流)として考えてみると次のようになります。
周波数が0.1ヘルツでも反射係数
Γ
(ガンマ)の式は成り立ちますから
代入すると次のようになります。
信号源側のインピーダンス(50Ω)と負荷側のインピーダンスが同じ状態であれば,
負荷側へ0.5wの電力が伝わりますが,負荷側が150Ω(SWR3)の時、負荷へ伝わるのは
0.375w(0.5w時の75%)です。
言い換えると,0.125w(0.5w時の.25%)が信号源から送り出せなかったとも言えます。
負荷が50Ωの半分の25Ωの時,SWR2相当となり,負荷へは0.44wが伝わります。
伝わらない0.06wは12%相当となり,「SWRが2.0の時11%が反射損失となる」と同等の値を表しています。
ページ頭の「SWR3の時,25%が反射損失となる」は,信号源と負荷が,周波数成によって
負荷インピーダンスが変化しない長さの線で接続されていて,接続箇所に整合回路が無い
場合のものと言えます。 (教科書モデルの場合に言えることですね)。
次ページ「SWR計の注意事項」へ続くは
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2017/06/26(月) 14:15:27
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