長さ2mのアンテナで7MHzを送信する(MMANAとSmith v3.10で計算)
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自動車の後部バンパーやトランクリッドを利用して長さ2mの垂直ANT建て,7MHzの電波を送信する時の話です。下図はイメージ図です。

まず,アンテナの給電点のインピーダンスをアンテナ解析ソフト”MMANA”で計算してみます。
フリーソフト”MMANA”のダウンロード,使い方は ⇒ こちら へもどってください。
MMANAのアンテナ定義の下図赤丸に値を打込みます。
ANTロッドの直径を10mmとした場合,R(mm)の値として半径の5mmを打込みます。

次はMMANAの計算タグの”計算ボタン”で実行した結果です。

給電点のインピーダンス Z=0.849Ω-j1021Ωと算出されました。
下図の左は長さ2mのANTと給電点のインピーダンス,右は等価回路です。
等価回路のRLはANTの”放射抵抗”(放射される電力からみなせる等価抵抗)です。
抵抗器の記号で表しますが,電流を流すと熱が発生する抵抗器とは異なるものです。

MMANAの計算結果が,給電点のインピーダンス Z=0.849Ω-j1021Ωと非常に低くく,50Ω同軸ケーブルに接続してもSWR=24612と非常に大きな値なので,送信電力はANTエレメントへ供給されず接続点から送信機側へ全反射されます。
このようなインピダンスの給電点と50Ω同軸ケーブルをマッチングさせる整合回路と具体的な値をフリーソフト”Smith v3.10”で算出します。
フリーソフト”Smith v3.10の使い方は ⇒ こちら
下図は”Smith v3.10”の画面です。A点は Z=0.849Ω-j1021Ω の位置です。C点は Z=約50Ωの位置です。
(すべての図はクリックで拡大します)

下図の左は“Smith v3.10”画面に表示された整合回路とLとCの値です(右図は左右を書き換えたもの)。

コイル23.2μHは1.4mmφホルマル線を直径40mmの空芯枠に密巻で約30回,直径50mmの巻枠なら約23回です。スペース巻にすると巻数が多くなります。
ここからが、このページのメイン部分です。
送信電力と高周波電流は次の関係にあります(基本的には直流回路と同じ)。

送信電力50W,ANT給電点のインピダンスRL=0.849で計算すると,給電点の電流は約8Aとなります。
給電点に接続される23.2μHのコイルは8Aの高周波電流でも発熱しないものが必要です。
コイル23μHは,ベースローディングとしてアンテナ下端に取り付けるか,車のトランク内に取り付けるか,アンテナチューナーとしてケースに入れてもOKですが,ANT給電点に近い場所に取り付けます。
次は整合回路に使用するコイルです(下図はエアーダックスコイルの写真です)。

上の写真のような空芯スペース巻コイルは品質が良い方ですが,高周波で使用すると,表皮効果などによる高周波抵抗分が発生します。
下図はコイル単体の等価回路です。Cはコイル線輪間の浮遊容量です。抵抗分Rcは周波数とインダクタンスに比例して増加する抵抗です。テスターなどで計測できるコイル線の抵抗値ではありません。

コイルの品質Q(Quality Factor)は周波数とインダクタンスに比例し,Rcに反比例します。コイルのRcが大きくなるとQの値が低くなります。コイルQの値からRcを逆算してみます。

ANTの給電点の放射抵抗RLと整合コイル23.2μHの高周波損失抵抗Rcが下図のように直列になります。
先に高周波電流が8Aと大きいと書きましたが,Rc+RLが約6Ωとなるため,幸か不幸かコイルの
高周波抵抗Rcによって電流が2.9Aと小さくなりました(Rcがゼロに近い理想的なコイルを使用すると8Aに近づきます)。

送信電力50Wの86%はコイルの5.1Ωで熱となり,14%がANTへ伝わります。
計算を単純化するため,垂直接地ANTの接地抵抗,整合回路のコンデンサ(バリコン)やコネクタ類の損失をゼロとしていますが,実際はこれらが加わるためANTエレメントへ伝わるのは10%以下ととなるでしょう。)
(垂直接地ANTにおける接地抵抗の損失は ⇒ こちら )
市販品に2m長に満たない7MHzベースローディングANTがありますが,ベースローディングコイルとは,上記の整合コイルのことなので,大きな銅線で空芯スペース巻し,車体から10~15cm離した取り付け方をしないと,電力の大部分がローディングコイルの中で熱となります。ANTエレメントへはわずかしか送信電力が伝わりません、
おわかりと思いますが,Q(コイル裸Q)を大きくするとコイル内の損失が減少し、ANTエレメントへ伝わる電力の割合が増加します。
Qを高くするには,
・コイル線の表面を大きくする(太い銅線,銅板,銅パイプを使用する。)
・コイル線を銀メッキする。
・空芯にする,スペース巻にする。
・コイルの長さと直径をほぼ同じにする。
・コイルを金属板から半径以上はなれるように設置する。
・バンド切り替えスイッチなどでコイルの一部を短絡しない。
・回転よってLを連続可変するものは,コイルとの接触部の劣化に注意する。
などがあります。
次の写真は,船舶用送信機の整合コイルです。お茶のペットボトルと比べてください。大きな巻枠に銅板でコイルが巻かれています。

Qの高いコイルにすれば長さ2mのANTでも もう少し効率良く電波を放射できるでしょうが,コイルQが高くなるとコイルとコンデンサによって整合できる周波数の幅が非常に狭くなる(共振点がシャープになる)ため,電波が出せる周波数の幅が非常に狭くなります。
自動車で運用する場合は,周囲に他の車や建物,樹木などがあるとANTのリアクタンス値が変動し整合状態が狂ってしまいます。
おかしな言い方ですが,Qの低いコイルを使用するとクリチカルでなくなるのでチューニング(整合)しやすい状態になります(損失が増えて放射される電力は小さくなりますが・・・)。
(長さ2mANTの中間部にコイルを挿入しセンターローディング式にすると給電点のインピーダンスが少し改善され整合がとりやすくなりますが,挿入するコイルのQが高くないと電波の放射効率は改善されません。)
以上でおわかりと思いますが,7MHzを長さ2mのANTから送信するのは お勧めできる方法ではありません。
この問題を解決する方法はANT長を少しでも長くすることです。
走行中に電波を発信するのは危険なので禁止されています。移動先の駐車場などで運用するのであれば,その都度,5mの釣竿を建ててANTエレメント長を4m以上にして給電すると,もう少し効率がよくなります。
ANTの長さを4m,更に6mとした場合,どのように改善されるか,次のページ続きます。
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- 2015/03/27(金) 15:01:34|
- アンテナと整合
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