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続2:長距離航海ヨットの通信アンテナ(バックステーアンテナの盲点)

続2:長距離外洋航海ヨットの短波通信アンテナ (バックステーアンテナの盲点? ・・・まとめ)
     The communications antenna of a long voyage sailboat.
    外洋ヨットの通信アンテナ(14,18,21MHzアンテナ)とチューナーとアース設計
    (外洋ヨットのHF通信アンテナ_アマチュア無線アンテナ その3・・・まとめ)

    
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     前ページ「続:長距離外洋航海ヨットのHF通信アンテナ_アマチュア無線ANT」の続きです。

【バックステー利用のアンテナは遠距離通信に向かない?】
 バックステーにインシュレーターを挿入して通信用アンテナとしているヨットを多く見かけます。
バックステーをアンテナに利用すれば,スマートで通信用アンテナとしても電波が受信でき,効率よく電波が飛びそうに見えます。なのに,それらのヨットの方から「思ったように遠距離との通信ができない」と言う話を聞いたことはありませんか?

バックステーのマストトップ側から1~1.5mの位置にインシュレータ-を挿入し,スターン側からも1~1.5m付近にインシュレーターを挿入して,その間を通信用アンテナとすればOK,アンテナとなる区間は長いほうが良い…などと単純に考えている人がいるのではと懸念します。
(艤装をする人が通信アンテナの技術を理解していないかも…)

アンテナ線を垂直にして使用する垂直接地アンテナは「長過ぎると良くない」ことをご存知でしょうか?
「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言いますが,垂直接地ANTの場合は「過ぎたるは及ばないどころか,遠距離へ電波が飛ばなくなる」のです。

長さが1/4波長の垂直接地ANTの基本動作図は次の通りです。(図はクリックで拡大します)

          垂直接地アンテナ

バックステーアンテナも「垂直接地ANT」です。
下図は,垂直アンテナの長さが変化した時の電波の輻射角度,受信点における電界強度を示したものです。図のλとは,通信周波数の波長です。数値は送信アンテナから輻射電力1KWを輻射し,1マイル(1.6㎞)先における電界強度の値です。(図はクリックで拡大します)
     打上げ角度1
     打上げ角度2

波長λは光速度÷周波数です。周波数が21.3MHzの場合,波長は30万km÷21.3MHz=14.08mとなります。
上図①のλ/12の垂直アンテナは14.08÷12=1.17mです。図②は2.35mです。図③のλ/4は3.52mです。図⑤はλ=1波長=7mです。
図①→②→③→④→⑤→図⑥と垂直アンテナを長くすると水平線の方向への電波の輻射が強くなります(電界強度の数値が増加します)。
ところが,図⑥より長くすると水平線方向への電波の輻射が減少し,上空48度方向への輻射が増加します(図⑦)。更に垂直アンテナを長くすると電波が上空54度方向への輻射となります(図⑧)。

遠距離通信には,水平線方向の輻射電波が必要なのに,アンテナ線を図⑥5/8波長より長くすると図⑦,図⑧のように電波の打上げ角度が高くなってしまうのです。(高く打上げられた電波は電離層で反射しないので遠方へ電波が届かないし,遠方からの電波も受信できなくなります)。

上記でお解りと思いますが,21MHz周波数で通信をする場合,バックステーのアンテナ部分は図⑥に相当する8.8mより短い状態で使用するのが効率的となります。それを知らず「長いアンテナは短いものより良い」などと安易な考えでは電波が遠距離へ飛ばないのです(遠距離からの電波も受信できない)。

8.8m分をアンテナとして使用すると,上側のインシュレーターの挿入位置がバックステーの中央部に近づく場合があります。バックステーの中央付近にインシュレーターが存在すると,その重さでバックステーに大きな揺れが発生する場合があります。揺れはバックステーや取付金具類の金属疲労をおこす虞があるので好ましいことではありません。

バックステーANTが思ったより遠距離へ電波が飛ばない もう一つの原因に,アンテナとなる部分が金属線のトッピングワイヤ(Topping Lift)と平行で,かつ近すぎる点です。
近すぎる場合は,トッピングワイヤ-に,3~5m毎に小型インシュレータを挿入して送信電流が誘導されないにすれば解決します…… ですが,あれこれ細工をしすぎると艤装の信頼性を低下させる虞があるので考え物です。
ここまでの話を図にすると次のようになります。(図はクリックで拡大します)
9_バックステーアンテナ58波長

く釈迦に説法ですが,ヨットは通信アンテナが重要ではなく,ステーなど艤装の信頼性が最優先です。
上記の「垂直アンテナ長と電界強度」の図で明らかなように21MHz用の垂直アンテナは1/5波長~1/4波長=2.8~3.5mあれば性能的に十分なのですから,バックステーを長々と使ったアンテナでなく,船尾へ2.8~3.5mのグラスロッドアンテナを建てる方法がステーなど重要な艤装に影響を与えないのでベストです。
グラスロッドの長さが4mあれば,21MHzでは1/4波長+0.5m,18MHzでは約1/4波長,14MHzでは約1/6波長となり,それらの周波数で効率よく電波を輻射する垂直アンテナとなります。

長さが4mの垂直アンテナを用いて7MHzの電波を送信することができますが,7MHzでは4mは1/10波長なるので,アンテナ給電点の値(インピーダンス)が非常に低くなり,送信電力をアンテナへ送込む部分のマッチング(整合)が難しくなります(例え話ですが,直径50mmの管の流れを直径1mmの管へ流し込むようなものです)。

注1
図③1/4波長送信ANTからの電界強度196mV/m,図①1/12波長ANTからは186mV/mと大きな差が無いととれますが,図の電界強度は,送信電力が損失無く完全に放射電力となった場合の値であって,実際は1/12波長ANTへ送信電力を送込む部分で大きな損失が生ずるので,短いANTからの輻射電波は小さくなります。

注2
1/10波長など極端に短いアンテナでは入力インインピーダンスの実数分が非常に小さくなるため整合器(アンテナチューナー)内部で大きな高周波電流が生じます。オートチューナの場合は増加した高周波電流によって内部のコイルや接点の焼損が発生することがあります。
   垂直接地アンテナ線の長さとインピーダンスの値は→こちらの(図2.7,図2.8,図2.9)をご覧ください。

以上のことから,遠距離通信アンテナは,スターン(船尾)に3~4mのグラスロッドアンテナを建てて使用するのがベストと言えます。

以上は,2000kmより遠い距離との通信を想定しての話です。遠距離通信の周波数として21MHzをとり上げた理由は,
(1) 少ない送信電力で遠距離へ電波が届く。
(2) ヨットからの電波を受信・中継してくれるアマチュア無線局が多い。
(3) 受信してくれる陸上無線局は大型アンテナを設置していて弱い電波も受信してくれる。
(4) ヨットからの通信を優先的に支援してくれるマリンネット体制がある。
   (日本では,オケラネット,シーガルネットなど,海外にも支援ネットがある)。
   (日本に近すぎる場合は,逆に遠方のハワイやオーストラリアの無線局が中継してくれる)
などです。

日本沿岸を中心に航海するのなら7MHzを使用する方法があります。電波を反射する電離層は季節や時間帯で変動しますが,7MHzは変動が少なくいため,100km~800㎞程度の中距離通信は7MHzの周波数を使用すれば年間を通して安定して通信ができます。7MHzの5/8波長は26mですからバックステーを長く使ったアンテナでも長すぎることにはなりません。

これらのことから,オケラ5世の航海では,100Km程度を併走するレース参加艇とはバックステーアンテナを使用して7MHzで通信を行い,日本など遠距離との通信はスターンに建てた3.5mのグラスロッドアンテナを使用しました。

下の写真の右上にバックステーに挿入したインシュレーターが見えます。船尾の「日の丸」の上の白いロッドが21MHzアンテナ(3.5m)です。この21MHzアンテナで南大西洋や南インド洋から日本への通信ができました。
          (写真はクリックで拡大します)
オケラ5シドニ沖



【…まとめ…】
(1) バックステーアンテナは長すぎると電波が遠距離へ飛ばない。
(2) ヨットの場合,遠距離通信アンテナとしては船尾へのグラスロッド(3~4m)がベター。
         1/4波長などに合った長さでなくてもOK。
          ANTとして利用できる通信用FRPロッドは ⇒ こちら
          ANTとして利用できる曳き縄用FRP竿は ⇒ こちら

(3) 7MHzなどを利用しての中距離通信が目的ならバックステーアンテナでも良い。
     (トッピングワイヤを電気が流れない材質にするか,トッピングが金属ワイヤーの場合は
      3~5m毎に絶縁物を挿入するとベター)
(4) 船底内側に金属板または金属メッシュを貼り付け,太く短い線でアースを配線する。
    (銅の多対線より,銅の太い被覆単線がベター,太いステンレス線でも良い。)
(5) アンテナチューナーとして「オートチューナー」を使用する場合は,
   波長に比べて極端に短いアンテナを使用しない(内部で焼損故障が起きる)。
          (長距離航海時にはマニュアルチューナを予備機として携行するとベター)
(6) オケラ5世,オケラ8世,スピリットオブユーコーの世界一周は故障しにくい「マニュアルチューナー」を使用した。
          マニュアルチューナーの例は→ こちら

(7) 短期間の航海なら「ツエップ型アンテナ」を使用するのが簡便(チューナが不要)。
   但し,ANT線をバックステーから2m以上間隔をとること。
   市販の「ツエップ型アンテナ」は,所詮,ビギナーアマチュア無線家向けで,かつ,陸上での利用を
    想定した製品であることを承知の上で使用すること。

          ツエップ型アンテナは  → こちら

(8) バックステー(金属線)から間隔がとれないアンテナ線の張り方はダメ。
          ダメなANT,良くないANTの例は → こちら 
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追記
30~34フィートのヨットで,船尾へグラスロッドANTを建てる場合は,垂直でなく若干後方へ傾斜させた方がベターです。小型艇ではバックステーと垂直アンテナとの間隔が十分にとれないため,それを少しでも解消するためです。
後方へ傾斜させることによってアンテナが金属ワイヤ-から離れるのでベターなのです。(図はクリックで拡大します)
          垂直ANTを傾斜
このページはヨット雑誌「舵」に掲載した記事の補足です。「舵」の内容は次の「ヨットのアンテナ・無線システムのセッティング」をクリックしてください。

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オケラネットのホームページは  → こちら

オケラネットの「アンテナ・無線システムのセッティング」は → こちら

アンテナチューナー(ANTカプラー)の話10~24項へもどるは ⇒ こちら 
   
垂直アンテナと同軸ケーブルの整合(マッチング)は ⇒ こちら



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  1. 2013/06/08(土) 21:58:16|
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