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長距離航海ヨットの通信用アンテナ

長距離外洋航海ヨットのHF通信用アンテナ (ヨット_オケラとアマチュア無線アンテナ_その1
   The shortwave communications antenna of a long voyage sailboat.
   外洋ヨットの通信アンテナ(14,18,21MHzアンテナ)とチューナーとアース設計
                                       総目次へもどるは→こちら

世界一周レースなど長距離航海ヨットの短波通信用アンテナ(アマチュア無線ANT)の話です。
ヨットの無線通信としては,外国の港への入港の際や,航海中に接近した本船などとの連絡用として「国際VHF」がありますが,国際VHFは無線周波数が150MHz帯のため見遠し距離をこえると通信ができません。21MHzや18MHz,14MHzのアマチュア無線周波数を利用すると北太平洋・南太平洋・インド洋などから日本へ通信ができます。
商船や遠洋漁業の船舶には短波通信装置が備えられていて,プロの無線通信士の乗船が義務付けられていました。今は,人工衛星を使用して航行中の船舶と通信が可能となりました。ヨットでも衛星通信が可能な装置を搭載すれば衛星経由の通信が可能ですが,21MHzなどの短波帯のアマチュア無線周波数を利用すると様々な情報が入手できますし,衛星通信装置が故障した場合のバックアップにもなり,航海の安全性が高まります(シングルハンドの航海では,孤独感の解消にもなるでしょう)。
前置きはこのくらいして,ヨットの短波通信アンテナの話に入ります。

先ず最初に【ダメなアンテナ】す。A useless shortwave antenna.
次の図のような逆V型アンテナ線の張り方は全くダメです。その理由は次の通りです。
(1)アンテナ線が金属線のフォアステー,バックステーに近すぎるため電波が飛ばない。
     (フォアステー,バックステーが非金属ならOKだが,ありえない話)
(2)マストトップにおいて左右のアンテナ線と給電用同軸ケーブルを接続しても金属ステーの
  影響でインピーダンスが合わない(不整合)ため,アンテナへ送信電力が送り込めない…
  …電波となって飛ばない。
(3)アンテナ線が途中で切れ,切れ残りがマストトップでハリヤードにからむとセールダウンが
  出来なくなる。(マストトップには必要最小限のものしか取付けるべきでない…
  …トラブルのもとは最小限とすべき)。
          (図はクリックで拡大します)


    1_ヨットにダイポールはダメ

  【良くないアンテナ】The shortwave antenna whose radiation efficiency is not good.
 アンテナ線を船尾のパルピットからマストトップへ張り,オートアンテナチューナを使って利用すればOKなどと安易に考えてはいけません(下図)。
 下図の方法の問題点は「アンテナ線とバックステー(金属線)との間隔があまりにも狭い」ことです。
電波を放射するアンテナ線に平行に金属線が存在すると「平行フィーダー」のようになり,アンテナ線から電波が効率的に輻射されません。(上図のダメなやり方 その1よりはマシですが…)

アンテナ線から電波を効率的に輻射するには金属物や金属線,海面からできるだけ間隔をとるのが基本です。

バックステーにインシュレーターを4~5m間隔で挿入すれば問題は解決しますが,インシュレータを多く挿入するとステーとしての信頼性(強度)が下がります。
The following figure is a shortwave antenna whose radiation efficiency is not good. This is because metal buck stays and the interval of an antenna wire are narrow.

     ダメなANT2


【本題に入ります】 スペースが限られるヨットにおいては,どのようなアンテナが良いか実例で示しましょう。


1.バックステーをアンテナとして使用する方法(下図)

 バックステーの上部と下部にインシュレーターを入れ,中間部をアンテナとして利用する方法です。
 【長所】
 ・バックステーをアンテナ線として利用するため,新たにアンテナを設ける必要がない。
 ・アンテナ線として利用できる部分が長くとれるため,10MHz以下の周波数でも利用できる。
 【注意点】
 ・インシュレーターを上下2か所に挿入するため,バックステーの強度(信頼性)に影響しないとは
  言い切れない。 (信頼性の高いインシュレータの選定が重要)
 ・インシュレーターは信頼性低下を考慮して定期的な交換が必要。
 ・インシュレーターは強度だけでなく,高周波的に優れた性能(低損失)のものが必要。
   (上部のInsulatorの表面に塩分が付着すると絶縁不良によってアンテナの性能が低下する)
 ・ブームの動きに伴ってトッピングワイヤ(Topping Lift 金属線)が動くとバックステーとの間隔が変化し,
  アンテナ部の特性(インピーダンス)が変化する。
 ・トッピングワイヤ(Topping Lift 金属線)を使用する場合は,ワイヤに3m~4m間隔で
  小型インシュレーター挿入し,バックステーアンテナに影響を与えないようにする。

・ アンテナチューナはアース配線が必要(アースは海水と接触させる必要はない)。
          (図はクリックで拡大します)  
    2_バックステーANT

 【その他の注意事項】
 ・アンテナ部分は長すぎてはいけません。長すぎると電波の輻射角度が高くなり
  電波が遠距離へ飛ばなくなります。詳しくは「続2」のページで説明します。
  
アンテナ部分の長さは通信周波数の5/8波長未満とします。(通信周波数が21MHzの場合,5/8波長は約9m)
  (インシュレーターをマストトップから下部1m,スターンから上部1.5 m程度に入れ,その間のアンテナとなる部分の長さが何メートルかわからないなど無神経なやり方はダメです)

 ・アンテナ部の長さ+アンテナ下部からアンテナチューナーまでの引込線の長さの合計が使用周波数の1/2波長の整数倍とならぬよう注意が必要(合計の長さが1/2波長の整数倍となる点はインピーダンスが非常に高くなるためアンテナチューナーの整合が難しい⇒オートアンテナチューナーでは整合できません)。

 次の写真は,バックステー下部からの引込線の配線の実例です。
ステンレス製のパックステーと銅の引込線(単線)を接続させると,接触面において電食錆が発生し,電気的接触が不完全となるので,接続部の防錆処理が必要です。引込線として銅線を使用せず,ステンレス線を使用し,ステンレス製のワイヤークリップ2個で締付ければ接続部での電飾錆の錆は少なくなります。この方法をとった時,ステンレス製の引込線から銅線(単線)の引込線への接続は,0.5~1mほど下部で良いでしょう。
 引込線はインシュレーター(Insulator)や他の金属線から10cm程度間隔をとって引込します。間隔をとるためのセパレーターはFRP板で自作しても良いでしょう。
          (写真はクリックで拡大します)
    インシュレーターと引込線
          (下図はクリックで拡大します)
バックステーと引込線の接続





2.グラスロッドアンテナ(バックステーを利用しない方法-1)・・・最もお勧めのアンテナ

 下図はスターンにグラスロッドを建て通信アンテナとする例です。
 バックステーもマストトップも使用しないアンテナです。
 世界一周などロングラン航海に向いているアンテナです。

 【特長・・・最もお勧めする理由>】
 ・バックステーの強度や信頼性に全く影響を与えない。
 ・マストトップも全く使用しないため帆走時のトラブルの心配が無い。
 ・デスマストしても通信が可能(バックステー利用の方法はデスマストしたら通信ができない)。
 ・構造がシンプルなためアンテナとしてのトラブルが少ない。
 ・アンテナチューナ(カップラー)を使用することで,14MHz~28MHzまで使用できる。
 ・電波の放射角度が低いため,遠距離通信へ向いている。
 【考慮点】
 ・スターンにグラスロッドアンテナを建てるための構造物が必要。
  (パルピットのコーナー部の低い位置へ取り付けても性能的には問題ないが,ヒールした時などに
   人間がつかまるとグラスロッドが折れる虞がある。)
 ・アンテナ部の長さが3~4mとなるため,7MHzなど低い周波数で効率よく電波を放射しにくい。 
 ・強度があるグラスロッドを使用しないと折れる虞がある。
 ・アンテナチューナはアース配線が必要(アースは海水と接触させる必要はない)。

          (図はクリックで拡大します)
    5_スターンへのグラスロッドANT
 
 グラスロッドアンテナで注意すべきはロッドの強度です。磯釣り竿などはFRPの肉厚が少いため短期間で強度が低下します。ヨットオケラ5世では漁師が船から竿を左右にだしてトローリングを行うときに使用する強力なグラスファイバー竿を使用しました。オケラ8世(スピリットオブユーコー)では,船舶用FAXアンテナを使用しました(次の写真はオケラ5世です)。 
オケラ5シドニ沖(部分縮小版)

次の写真はKODEN8(オケラ8世)です。レーダーをマストへ取り付けたため船尾へレーダー用のヤグラを設けず,短波通信用アンテナは船尾のパルピット支柱を補強し,その支柱へ取り付けました。写真ではわかりにくいですが左右2本(常用と予備)の垂直ロッドアンテナを取付けています。(写真はクリックで拡大します)
   オケラ8_0003

 現在,船舶用FAXアンテナの入手は難しいため,つなぎ部分の無い強力な4m程度の鰹一本釣り竿か,キュビカルクワッドアンテナ用として製造されているグラスロッドに電線を挿入してアンテナとするのが良いでしょう。
 下図はキュビカルクワッドANT用グラスロッドの例です。詳しくは,インターネット検索へ「ホーペック 電気通信用FRPアンテナ」と入れて検索すると下図のページが見つかります。
    ホーペック 電気通信用FRPアンテナは ⇒ こちら  ANT用グラスロッド例

上の電気通信用FRPアンテナとは別に トリポール「曳き縄用1本竿」のページがあります。このページの「曳き縄用1本竿」4.5mに電線(単線)を通してグラスロッドアンテナとする方法があります。
    「曳き縄用1本竿」のページは ⇒ こちら
     http://www.hopec.jp/contents/fishing/products/fishery/2_1_toripole_s3.html

ロッドの中に通す単線は1.6~2.0mmΦのIV線で良いでしょう(街中の電柱のアース配線に使用されている緑色の被服電線)。IV線でなく1.6mmΦステンレス単線(裸線)を使用すれば長年使用しても切れる虞は無いでしょう。
ロッドの下部から20~30cm程度の位置に穴をあけて電線をロッド内部へ通します。電線がロッド内でカタカタ揺れないように一定区間ごとにFRP樹脂を塗布して挿入します。ロッドの先端部で電線をFRP樹脂で固定し,併せて防水します。ロッドの表面はウレタン塗装をして紫外線によるロッドの劣化を防ぎましょう。ロッド下部は水が溜まらぬように水抜きを考えましょう。

アンテナ部の長さは,必ずしも使用周波数の1/4波長としなくてもOKです。(アマチュア無線家の中に,アンテナ長は1/4波長や1/2波長に同調していないといけないと思い込んでる方がいますが,使用周波数に同調していない8/5波長アンテナでも良いのです。(使用周波数が21MHzなら,上図のロッドの長さは3~3.5mあれば十分です…あまり長くするとヨットが横転した時に折れる心配があります)。

アンテナ部の直下に同軸ケーブルを接続する場合は,アンテナ部の長さを使用周波数の1/4波長×0.98程度にして,アンテナの電気的特性の中のリアクタンス分を最小にするなどが必要です。 同軸ケーブルを使用せず,単線でアンテナチューナまで引込む場合には,アンテナ線+引込線を含むトータルの調整をアンテナチューナー内部のコイルや可変コンデンサで行うので,アンテナ線を周波数の1/4波長×0.97に合せなくても良いのです。

アンテナの長さが1/4波長より短い場合は,アンテナ中央部あるいは下部へコイルを挿入して使用しても良いですが,ヨットでは塩分がコイルのカバーに付着するので,好ましい方法ではありません。アンテナ下部から最も近い船内側に「アンテナチューナー」を取付けて整合させるのがベターです。


3.ツエップ型アンテナ(バックステーを利用しない方法-2)
 次はマストトップからスターン(船尾)へ「ツエップ型アンテナ」を張る方法です。
 ツエップ型とは,ドイツの飛行船「ツエッペリン号」で用いられたツエッペリンアンテナの変形です。ツエップ型ANTはアンテナ線の部分の長さを使用周波数の1/2波長にして使用します。アンテナ線の片側(図では下側)へ専用のマッチング部を設け,その部分から同軸ケーブルで給電します。このANTの長所と短所は次の通りです。
【長所】
 ・バックステーにインシュレーターを挿入しないので,バックステーの信頼性低下を心配しなくて済む。
 ・アンテナ整合部から無線機まで同軸ケーブルで直接接続することができる。
   (アンテナチューナーが無くても良い)
 ・ヨットの船底へしっかりしたアースがとれなくても電波の飛びに影響が少ない。
 ・比較的簡単に設置できる(コストが安い)。
【短所】
 ・使用できる周波数がアンテナとして設計された周波数に限定される。
   (アンテナチューナを取付けても他の周波数では使用できない)
 ・アンテナ線がバックステーに近いと電波の飛びが大きく悪化する。

【注意事項】
 ・アンテナ線はバックステーから十分な間隔をとること(少なくとも1/8波長以上の間隔)
   21MHzの場合,アンテナ線の上部でも2m以上の間隔が望ましい。
   バックステーから間隔をとるために船尾へパイプを建て,アンテナ線をステーから十分に離す。
 ・アンテナ線の片端のマッチング部をしっかりと防水する必要がある。
   (水が浸入するとアンテナとのマッチング状態が狂い電波が飛ばない)
 ・アンテナ線が切れて,残り部分がマストトップに絡むと危険なので,切れにくいステンレスワイヤーを使用する。
 ・市販品は所詮「ビギナーアマチュア無線用の製品」であること。
                        (図はクリックで拡大します)
    3_ツエップ型アンテナ
 ツエップ型アンテナの片端に取付ける整合部(マッチングコイル部)を初心者が自作することは難しいため,初めての場合は市販品の利用が無難です。市販品は陸上での使用を標準に製造されています。即ち,市販品は塩分を含む強風にさらされ,常に大きな揺れの力が加わる環境での使用を保証しているとは思われません。
市販品はバックステーなど金属線がアンテナの付近に無く,かつ,地上から十分に高い位置にアンテナを張った状態に合わせて製造されています。
 下図は市販のツエップ型アンテナ専用のコイル部(整合部)です。
1821-1.jpg
 ツエップ型アンテナを長距離航海に使用する場合は,アンテナ線の部分をステンレスワイヤーとし,整合部は同軸ケーブルとの接続部を含めてしっかりと防水処理をしましょう。
 バックステーなどから数メートルしか離れていない位置にアンテナ線があるため調整が必要です。
上図の「調整ヒゲ線」とは,アンテナ線の全長を調整するための部分です。この部分を含め,全長が1/2波長より若干長くなるようにアンテナ線の長さを決めます。その状態で,SWR値を計測し,目的の周波数より低い周波数にマッチングしている場合は,ヒゲの長さを少しずつ切りながら目的の周波数でSWR値が最小になるように調整します。

 調整作業時,同軸ケーブルの長さを1/2波長×同軸の短縮率の長さ,もしくはその整数倍の長さで使用することがベターです。5D2V同軸ケーブルの短縮率は0.67です。
(21MHzで同軸ケーブル5D2Vを使用する場合は,1/2波長=(300÷21.3)×1/2=7.04m に短縮率0.67を掛けた4.72mもしくは,その2倍の9.43mの長さの状態で使用すると良いでしょう。その理由は,アンテナと同軸ケーブルの接続部が完全整合状態(SWR=1.0)でない場合,同軸ケーブルに反射波が生ずるが,4.72mの整数倍の点はアンテナとの接続部の状態と同じ状態となるため,アンテナとの整合状態を手元で把握することができる)。

 上の写真のツエップ型アンテナは,陸上で簡便に使用するビギナーアマチュア無線向けなので,世界一周など長期の航海に耐えられるかの不安はありますが,安価に建設できるので2~3か月程度の航海なら問題は少ないでしょう。整合部(マッチングコイル部)の予備を準備して航海すると良いでしょう(海外の港でマッチング部を入手することは難しいと思います)。
下図はツエップ型アンテナを設置する時のポイントをまとめた図です。
   ツエップ型ANTの取り付け方
   上図のアンテナ用パイプの目的・傾けた理由は,バックステーなどの金属物・金属物から
   アンテナ線までの間隔を広くするためです。

   ,船尾から見てFAXアンテナを右側に建てたら,無線アンテナ用パイプは左側,に配置します。



以上の3方式のまとめ
オケラ5世による第1回BOC世界一周レース,オケラ8世(コーデン8)での第3回BOC世界一周レース,スピリット オブ ユーコーでの単独無寄港世界一周の実績から,短波通信用アンテナとしてはヨットの艤装に全く影響を与えない「グラスロッドアンテナ」が信頼性・通信性能の面でもベストと考えます。

通信周波数としては,21MHzを利用すれば50W程度の送信電力でも南太平洋やインド洋から日本への通信ができる利点があります(オケラ5世の時は南大西洋から日本へ電波が飛んできていた)。---2級以上の無線従事者の資格があれば14MHzも利用するとベター。)


アンテナ線から無線機への接続やアース配線(下図)については,次のページで説明します。
         (図はクリックで拡大します)
          ヨットのアース板

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簡単で高性能のヨット用21MHzアンテナとマッチング方法は  ⇒ こちら

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  1. 2013/05/30(木) 22:30:12|
  2. 長距離航海ヨットの通信用アンテナ
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